アートと音楽の交差点から作品を発表し、革新的な活動を続けてきたクリスチャン・マークレーの日本国内初の大規模な個展「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]」が、東京都現代美術館で開催中です。
ターンテーブル演奏のパイオニアとして知られるクリスチャン・マークレー。
80年代以降は音や音楽にまつわる視覚美術の制作活動に重点を移し「サウンド・アーティスト」として有名になり、90年代以降はいくつもの重要な映像作品を手がけ、現代美術の作家として高い評価を得ています。
本展ではそんなクリスチャン・マークレーの初期の作品から最新のインスタレーション作品までが展示されています。
本記事は「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]」にはどんな作品が展示されているか、チケットや混雑状況に所要時間、そして私自身の個人的な感想をまとめたものになります。
会期やアクセスなどの基本情報
- 会期:2021年11月20日(土)~2022年2月23日(水・祝)
- 休館日:月曜日 (2022年1月10日、2月21日は開館 )、年末年始 (12月28日-1月1日 )、1月11日
- 開館時間: 10:00-18:00(展示室入場は閉館の 30 分前まで)
- 会場:東京都現代美術館 企画展示室 1F
- 住所:〒135-0022 東京都江東区三好4丁目1−1
美術館内にロッカーがあるのでコートや大きな荷物などは事前にロッカーに預けることができます。
展示室内にたしかトイレはなかったと思うので、入場する前に済ませておきましょう。
チケットについて
東京都現代美術館では、新型コロナウイルスの感染予防・拡散防止のため、展覧会のご観覧にあたり各時間に定員を設けた予約優先チケット(日時指定券、日付指定券)を導入しています。
当日券も販売しているようですが、混雑状況によっては入場まで待つこともあるので来場前に予約優先チケットを購入することをおすすめします。
また、同時期開催の「Viva Video! 久保田成子展」、「ユージーン・スタジオ 新しい海 After the rainbow展」も観覧予定であれば、観覧料がお得になるセット券も販売していますのでそちらもぜひ検討してみてください。
所要時間や混雑状況、写真撮影について
私は祝日の午前中に行きました。
入口と一番最初の展示室は若干混雑しておりましたが、中に進むとそこまで混雑もなく快適に鑑賞することができました。
所要時間はだいたい1時間くらいでした。映像作品も短いものが多いので、そこまで時間はかからない印象です。
展覧会は写真・動画撮影が可能なので、ゆっくりと撮影しながらなら1時間半くらいではないかなと思います。
展覧会の内容
この展覧会ではマークレーの作品の多くに見られるサンプリングという技法、すなわち既存のイメージや音を抽出し、再利用することで、ある領域から別の領域へと言語を変換する「翻訳」行為に焦点を当てています。
音楽、アート、マンガ、映画、街のグラフィティまで、マークレーが既存の世界をどのように翻訳し、リミックスしてきたのか。初期から最新作まで、その全キャリアを振り返る作品を見ることができます。
それでは順路に沿って作品を簡単にご紹介していきます。
まず最初の展示室で目にするのが「リサイクル工場のためのプロジェクト」という作品。
2005年に東京のリサイクル工場で使用済みの電気製品を使って制作された作品だそうです。
同じ展示室の壁には長い文字列が描かれています。
この作品「ミクスト・レビューズ」は新聞や音楽雑誌に掲載された演奏やレコードなど音楽にまつわるさまざまなレビューから音の記述をサンプリングし、マークレーが言葉の音楽として構成したものです。
展示されるたびに、その国の言語に翻訳され、最新版を原文として、まるで伝言ゲームのように変化し続けている作品です。
次の展示フロアは長い通路になっていて、それぞれの両端には映像作品が展示されています。
レコードを食べる様子が、ストップモーション・アニメーションで描かれている「ファスト・ミュージック」。
レコードを曲げたり叩いたりして音響を生み出している「レコード・プレイヤーズ」。
長い通路にはレコード盤を切断し、その断片をパズルのように切り貼りして作ったコラージュ作品「リサイクルされたレコード」が展示されています。
通路を曲がると、ショーケースにの中に飾られている作品が「レコード・ウィズアウト・ア・カバー」。
その名の通り、レコードにカバーをつけずむき出しで流通させ、偶発的についた傷によるノイズを元から録音されているノイズと混じり合わせることで予測不能な結果を生み出しました。
次の展示室には壁の両側に作品が展示されています。
「アブストラクトミュージック」は音楽のジャンルなどの特異性を消し、匿名性と抽象性を持たせるために、ジャケットに印刷された文字の上に、ジャケットに印刷された絵画の様式を模倣し描いています。
「マンガ・スクロール」はアメリカのマーケット向けに翻訳された日本のマンガの中のオノマトペを切り抜いて、横に長く繋げた音のコラージュ。
この隣の展示室では映像作品「ビデオカルテット」を見ることができます。
古今東西の映画から、音にまつわるシーンを4つの連続する画面に集めたマークレーの代表作の一つ。それぞれのスクリーンに登場人物が楽器を演奏する音をはじめ、叫び声やノイズ、事物の立てる音のシーンなどがコラージュされ、次々と映し出されます。
選ばれた素材は、さまざまな音楽の形式のインデックスであると同時に、誰もが知っているスターの姿や映画の断片でもあり、文化史のサンプルでもあります。
15分程度の長さですが、徐々に高揚していく流れもあり、最初から見るのをおすすめします。
次の展示室には「架空のレコード」「シャッフル」「つづく」「ボディ・ミックス」「コーラスⅡ」が展示されています。
「シャッフル」はマークレーが旅行中に撮った75枚の写真をグラフィック・スコアとして出版した作品。日常のありふれたもののなかにある音符を撮影しています。
「コーラスⅡ」は雑誌に掲載された、開いた口をクローズアップしたモノクロ写真を再撮影し、古いアンティークのフレームに収めたシリーズ。
口の形を作るように、楕円形の壁に設置することで合唱隊のように見えてきます。
「ボディ・ミックス」はロックスターや指揮者など、支配的かつ偶像的に現れる男性の上半身と、無名の女性たちの下半身のパーツをコラージュした作品。
不思議と違和感なくて、面白いですね。
次の部屋には大きなキャンバス作品が展示されています。
この「アクションズ」シリーズは一枚のキャンバスの上で、その制作過程に行われたいくつものトランスレーションを可視化したものです。
水しぶきや泡などの音を示したマンガのオノマトペのコラージュを楽譜として、床に水平に寝かせたパネルに絵の具を高い場所から落としたり、立てかけたキャンバスに投げつけたりして音を立て、その上から元となったオノマトペのコラージュをシルクスクリーンで刷ったそうです。
続いて目に飛び込んでくる作品が「叫び」。
なんだか見覚えのあるキャラクターたち。
それもそのはず、こちらの作品は主に日本のマンガから引用されたイメージを切り貼りし、それをコラージュして新しい顔を再構築したものだそうです。
先に進むと大きな展示室に出ます。
ここではカメラを使わず、印画紙の上に光を遮断する様々な物体を置いて直接露光した写真作品の「フォトグラム」。反射しちゃって全然キレイに写ってませんが、実物はすごくキレイです・・・。
新聞広告、雑誌の挿絵、レストランのメニューやお菓子の包み紙などから音符が描かれている部分を撮影し、28枚の未製本のプリントとして再現した「エフェメラ」。
5000枚の五線譜が刷られたポスターを待ち中に貼り付け、そこに音符や絵や文字、落書きなどが書き込まれたポスターの写真を撮影し、ポートフォリオとして構成して出版した「グラフィティ・コンポジション」などが展示されています。
この展示室につながる通路の先にあるのが「サラウンド・サウンズ」。私が一番印象に残っている作品です。
マンガのオノマトペを引用した没入型の無音の映像インスタレーション。コミックからスキャンされた文字が、その音響的な特性をともなうアニメーションの渦となって四方を囲みます。
無音だからこそ視覚を通じて想像上のシンフォニーにどっぷり浸かります。
時間を忘れてずっと見ていられる不思議なインスタレーションでした。
出口に続く通路には3作品。
「フェイス」はこの展覧会のメインビジュアルにもなっています。
コミックから叫ぶ人の顔のイメージを切りとり、オノマトペによる不協和音やノイズなどとコラージュした小型の作品。
世界中がコロナ禍に見舞われた2020年に孤立した生活の中で作り続けた作品で、マスクに隠されてしまった多くの声、感情に対して、カタルシスと共感を呼び起こします。
「ノー!」もまた、コミックの断片から作られた、単声のためのグラフィック・スコア。
「No!」という人間の原初的な抵抗の表現に、政治や社会状況も含めた多くの意味を重ねつつ、感情の共有という音楽の根源的な作用をもたらすことになります。
最後展示されている映像作品が「ミクスト・レビューズ(ジャパニーズ)」。
ろう者による音の表現に興味をもってきたマークレーが、本展の冒頭に展示されていた文章のコラージュ「ミクスト・レビューズ」を、手話から発した身体表現を用いて翻訳したサイレントビデオ作品です。
この映像作品で展示会の内容は終了となります。
「ビデオカルテット」以降の作品は音を発するものはなかったですが、不思議な事に聞こえていなくても音楽が空間を満たしているような展覧会でした。
「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]」に行った感想
現代美術の分野でも最も人気のある巨匠として活躍してきたマークレーの作品は音を見たり、イメージを聴いたりと、未知の体験へと導いてくれます。
マンガのオノマトペを用いた作品も多く、比較的取っつきやすいアーティストなのかなと思いました。
展覧会は全作品写真・動画撮影も可能なので、本当に素敵な空間だった「サラウンド・サウンズ」はいっぱい動画を撮ってしまいましたし、ここを背景にして映える写真も撮れそうですね。
ということで、「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]」の超個人的なおすすめ度は・・・。
★★★★☆
あくまで私個人の感想ですが、参考にしていただければ幸いです。
しかもこの展示会以外にも東京都現代美術館で同時期開催している「Viva Video! 久保田成子展」、「ユージーン・スタジオ 新しい海」も素晴らしい内容ですのでぜひ合わせてチェックしてみてください。
これからも少しずつアートやファッション関係の記事を書いています。
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