東京・清澄白河の東京都現代美術館で「EUGENE STUDIO(ユージーン・スタジオ)」の初個展「ユージーン・スタジオ 新しい海 After the rainbow」が開催中。
すでに見にいった人たちがSNSに投稿している多数の「映える」写真を目にして、これはぜひこの空間を体験してみたいと思い、早速行ってきました。
本記事は「ユージーン・スタジオ 新しい海 After the rainbow」を鑑賞してきた私個人の感想と展示作品の大まかな内容、混雑状況、所要時間などをまとめたものになります。
EUGENE STUDIO(ユージーン・スタジオ)とは
ユージーン・スタジオは寒川裕人(Eugene Kangawa、1989年アメリカ生まれ)による日本を拠点とするアーティストスタジオです。
2017年に銀座の資生堂ギャラリーで個展「THE EUGENE Studio 1/2 Century later.」を開催し、その後も国内外の展覧会に精力的に参加してきました。
近年ではアメリカを代表する現代SF小説家ケン・リュウとの共同制作、完全な暗闇で行う能のインスタレーション「漆黒能」、アメリカで発表した短編映画がパンアフリカン映画祭などのアカデミー賞公認の国際映画祭のオフィシャルセレクションに選出されるなど、自由な発想の幅広い活躍に国際的な注目が集まっています。
ちなみに平成生まれの作家としては東京都現代美術館初となる個展となるそうです。
アトリエの風景、作家インタビュー動画(約4分、東京都現代美術館 公式Youtubeより)
展覧会の内容
展覧会は、一部の作品を除いて写真・動画撮影が可能となっています。
注意が必要なのが「想像」という作品の鑑賞は整理券制となっています。
完全な暗闇で作られ、作家本人も含めて誰も見たことがなく、今後も誰も見ることができない彫像作品で、暗所に展示されているというものです。
一人ずつ時間入替え制となっているため、1日に鑑賞できる人の数はかなり少なそう。
週末の昼過ぎに行ったときにはもう整理券の配布は終了してしまっていて、私は鑑賞することができませんでした。
どうしても見たいという方は早い時間に行くことをおすすめします。
順路に沿って作品を紹介していきます。
「ホワイトペインティング」シリーズ
エントランスで最初に目にするのがこの真っ白いキャンバスです。
何も描かれていないように見えますが、実は人々の接吻の跡が重なっています。
世界のさまざまな都市で声をかけながら制作された本作は、国や地域、信仰の対象が異なるさまざまな人たちの思いの痕跡が集積しています。
海庭
順路を進むと床に水が張られた巨大なインスタレーション作品が展示されています。
この展示室は吹き抜けになっており、水の底には白い砂が敷かれ、壁面の鏡が水面を反射してかなり広大な空間を作り出しています。
昼間と夜ではまた見え方が違いそうです。
「レインボーペインティング」シリーズ
大型のキャンバスに描かれた作品。無数の点描からなる油彩画です。
キャンバスの中でせめぎ合うように密接している点は、重なっているのかと思うと個々に独立し微妙な色差があり、全体を見渡すとレインボーに見えます。
個と集団、存在の差異と類似など、現実社会でも通じる問いかけが成されています。
あるスポーツ史家の部屋と夢
スポーツの構造をチェスによる頭脳分析とドラムによる共鳴・共振現象によって再構築しようとしたもの。
寒川さんが学部時代に卒業制作としてワークショップでゲームを実践した装置だそうです。
実際にチェスが差し進められると同時にドラムの鼓動が響くと、空間を緊張感や興奮が満たしていくらしいです。
私にはすべて光り輝いて映る
ドラムの周りに展示されている黄金に輝く作品群は、真鍮に特殊な加工を施した金属にオイルパステルや油絵具、鉛筆を用いて描いたドローイング作品。
さまざまなものがありますが、どの作品も作家のその時々の視線の動きをトレースするように描かれているそうです。
この世界のすべて
1面体から120面体のサイコロから成るもので、この場で転がされた状態で置かれています。
このサイコロは日々振られており、出た目、配置は偶発的なもので二度と同じ状態になりません。
日常も偶然の重なりで構築されていることを考えさせられます。
私は存在するだけで光と影がある
翠色の水性染料を特殊な技法によって均一に塗布した画面が自然光によって退色し、グラデーションが生じた作品。
翠色を塗布した一枚の紙を折り曲げて多角柱にし、太陽光に曝すと、光があたっている面は退色が進み、影になっている面は翠色が保たれていることでグラデーションが生じています。
物語の整地
ステンドグラスを模写したガラスを泥や水などで風化させ、砕き、細かくした数百万粒のガラスの粒子で制作されています。
上の写真は作家のもとへ輸送される最中に偶発的に破損した19世紀のステンドグラスそのものを用いて制作されたものだそうです。
下の写真の作品は新約聖書のキリスト埋葬をモチーフにしたステンドグラスを元にしていて、キリスト教において最も重要なテーマのひとつである復活を制作過程でも再現しているとも言えそうです。
善悪の荒野
テーブルやイス、油彩画など部屋の調度品が破壊され、焼き払われ、その灰や塵とともに時が止まったようにガラスケースの中に収められています。
本作品はスタンリー・キューブリックの映画「2001年宇宙の旅」(1968年)に触発されて制作したもので、映画終盤のシーンに現れる部屋を原寸大で再現し、破壊、焼失させたオブジェで構成したインスタレーション。
作家は制作した2017年当時、人類誕生以前と未来を描いた映画の物語を破壊することで、人々の未来を再度想起させるきっかけを与えようとしたそうです。
小さな共通項(36人で同時に見上げた空)
約8キロに渡って点在した36人が一斉に空を見上げて撮影し制作したものです。
36点すべてを繋ぎ合わせると、地上にいるひとりの視点からは観察できない水深3,000メートル地点から見上げた空の写真になります。
順路上には1つ。残り9つが美術館のロビー数か所に展示されています。
ゴールドレイン
暗闇の中、天から降り注ぐように金箔と銀箔の粒子が舞い降りる作品。
同じ様相を呈さずに延々と降り注ぐ金の雨を見ていると、重力や時間について、偶発や軌跡の連続性について考えせられます。
夢
最後の展示室にはドビュッシーの初期代表曲「夢想」を、ふたりの登場人物が空弾きする映像をつないで制作された作品が展示されています。ヘッドフォンを使用して鑑賞。
こちらは写真撮影不可と思って撮影してませんでしたが、動画撮影不可で写真はOKだったようです。
個人的に注目の作品をInstagramのリールで投稿してますので、そちらも見てみてください。
混雑状況や所要時間について
私は祝日のお昼過ぎに行きました。
前述したように整理券制になっている「想像」の整理券配布は終わってしまっていたので見ることができませんでしたが、そこまで混雑もなく快適に鑑賞することができました。
所要時間は1時間かからないくらいでした。駆け足なら30分、ゆっくりと写真や動画を取るなら1時間半くらいではないかなと思います。
会期・アクセスなどの基本情報
- 会期:2021年11月20日(土)~2022年2月23日(水・祝)
- 休館日:月曜日 (2022年1月10日、2月21日は開館 )、年末年始 (12月28日-1月1日 )、1月11日
- 開館時間: 10:00-18:00(展示室入場は閉館の 30 分前まで)
- 会場:東京都現代美術館 企画展示室 地下2F
- 住所:〒135-0022 東京都江東区三好4丁目1−1
美術館内にロッカーがあるのでコートや大きな荷物などは事前にロッカーに預けることができます。
展示室内にたしかトイレはなかったと思うので、入場する前に済ませておきましょう。
チケットについて
東京都現代美術館では、新型コロナウイルスの感染予防・拡散防止のため、展覧会のご観覧にあたり各時間に定員を設けた予約優先チケット(日時指定券、日付指定券)を導入しています。
当日券も販売しているようですが、混雑状況によっては入場まで待つこともあるので来場前に予約優先チケットを購入することをおすすめします。
また、同時期開催の「Viva Video! 久保田成子展」、「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]展」も観覧予定であれば、観覧料が700円もお得になるセット券も販売していますのでそちらもぜひ検討してみてください。
「ユージーン・スタジオ 新しい海」に行った感想
映える作品が多く、視覚的に楽しめるので普段美術館などに足を運ばない方も十分楽しめる展覧会だと思います。
撮影しがいのある作品が多いのですが、作品リストに書かれている作品解説を読むとさまざまな価値観を私たちに問いかけていると知れるので、より展覧会を楽しめました。
ということで、「ユージーン・スタジオ 新しい海」の超個人的なおすすめ度は・・・。
★★★★☆
あくまで私個人の感想ですが、参考にしていただければ幸いです。
開催してまだ間もなく、さほど混雑もしておりません。しかし、展覧会内の写真がSNSで拡散されれば少しずつ混んでくるんじゃないかなと個人的には思っていますので、行くなら早いほうがおすすめ。
しかもこの展示会以外にも東京都現代美術館で同時期開催している「Viva Video! 久保田成子展」、「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]展」も素晴らしい内容ですのでぜひ合わせてチェックしてみてください。
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