1988年のデビューから今日に至るまで、ファッション界の「伝説」であり続けているマルタン・マルジェラ。
2008年に表舞台から姿を消した彼が、今度は「アーティスト」として私たちの前に帰ってきました。
2021年のパリ、そして北京を巡回し、大きな話題を呼んできたマルジェラの個展。
その日本初となる大規模個展の舞台に選ばれたのは、美術館ではなく、九段下に静かに佇む一軒の歴史的邸宅「九段ハウス(kudan house)」でした。
「服」という制約を離れ、身体、時間、そして「不在の気配」を形にしたマルジェラの現在地。
そこには、かつて私たちが熱狂したデザイナーとしての影を残しながらも、より純粋で、より根源的な「問い」を投げかける表現者の姿がありました。
本記事は九段ハウスで開催している「MARTIN MARGIELA AT KUDAN HOUSE」について、チケットやアクセスなどの概要、所要時間や混雑状況、販売されているグッズ、そして個人的な感想をまとめています。
これから展覧会に行く予定の方、気になっている方の参考になれば幸いです。
展覧会の概要
本展「MARTIN MARGIELA AT KUDAN HOUSE」は、アーティスト・マルタン・マルジェラ自身がキュレーションに関わり、空間そのものを一つの作品として構築した特別な展覧会です。
| 会期 | 2026年4月10日(金)〜4月29日(水) |
| 開館時間 | 10:00〜19:00 (最終入場18:00) ※2026年4月29日(水・祝)のみ最終入場16:00、閉館時間17:00 |
| 会場 | 九段ハウス |
| 住所 | 〒102-0073 東京都千代田区九段北1-15-9 |
チケットについて
本展は、建物の保存と鑑賞体験の質を保つため、「完全予約制」となっています。
- 料金
- 2,500円
- 予約方法
- 公式サイト経由(ArtSticker)での事前購入が必要です。
- 注意点
- 邸宅という限られたスペースでの開催のため、枠が埋まるのが非常に早いです。
週末は特に争奪戦となるため、予定が決まったら即座に確保することをお勧めします。
マルジェラについて

展覧会の全容に触れる前に、改めてマルタン・マルジェラという人物がファッションの歴史に刻んだ足跡を辿ってみましょう。
1988年、自身の名を冠したブランド(現在のメゾン マルジェラ)を設立。
彼が最初に行ったのは、それまでの「美しさ」の定義を根底から覆すことでした。
衣服の裏地をあえて表に出し、肩パッドを抜き、裾を切りっぱなしにする。
あるいは、古着のジーンズや軍用スノーガウンを解体し、全く別のドレスへと仕立て直す——。
「デコンストラクション(脱構築)」と呼ばれるその手法は、華美な装飾が主流だった当時のモード界に激震を走らせました。
カレンダーを模した白い布、通称「カレンダータグ」の四隅を留める白いステッチ。
ブランド名ではなく、服そのものの価値を見てほしいという彼の徹底した「匿名性」へのこだわりは、今の時代においても多くのクリエイターに影響を与え続けています。
2008年、絶頂期にありながらファッション界を引退。
それから十数年の沈黙を破り、彼は「一人のアーティスト」として再び現れました。衣服という制約を脱ぎ捨て、彼が今度は何を「解体」し、「再構築」しようとしているのか。
それが、この九段ハウスという場所で明かされることになります。
九段ハウスについて

今回の舞台となる「九段ハウス」は、1927年(昭和2年)に竣工した旧山口萬吉邸。
新潟の豪商・山口家の邸宅として、木子七郎、今井兼次、内藤多仲という、当時の日本建築界を代表する巨匠たちが集結して造り上げた、歴史的にも極めて重要な建造物です。

登録有形文化財にも指定されているこの邸宅は、当時流行したスパニッシュ様式を基調としています。
しかし、単に華美なだけでなく、日本で最初期の鉄筋コンクリート造(RC造)住宅の一つであり、関東大震災直後という背景から「堅牢さ」と「美」を両立させた、祈りのような強さを持っています。

マルジェラがあえて美術館ではなくこの場所を選んだ理由は、建物の持つ「生活の痕跡」にあります。

マルジェラはかつて、真っ白なペンキが剥がれ落ちる様子や、布が擦り切れていく時間を肯定してきました。

九段ハウスの、年月を経て鈍い光を放つ床板、深い陰影を作る漆喰の壁、そして独特の「古びた匂い」は、彼の作品が持つ「時間の蓄積」というテーマと完璧に共鳴しています。

応接間としての華やかな意匠が凝らされた表の顔と、使用人の動線や地下のボイラー室といった生活の裏側。

邸宅特有の複雑な構造が、マルジェラの「匿名性(隠すこと)」と「開示(見せること)」という二面性を表現するための格好のキャンバスとなっているのです。

美術館のような均質化された空間ではなく、誰かの人生の断片が染み付いた「家」だからこそ、マルジェラの作品は単なるオブジェであることをやめ、まるで「かつての住人の幽霊」のように、そこに実在感を持って立ち現れるのです。
所要時間に混雑状況
建物は地下1階から地上3階まで、邸宅の隅々が展示スペースになっています。
単に作品を見るだけでなく、部屋から部屋へと移動し、時に「この先に何があるのか?」と探求しながら進みます。
作品数は多くなく、キャプションなどもないため、所要時間は1時間ほどで見終えるとは思いますが空間を使った濃密な体験ができるので充分な満足感です。
完全予約制のため、一般的な美術館のような「人の頭越しに作品を見る」というストレスはありません。
ただし、九段ハウス特有の狭い階段や小部屋は、2〜3人も入れば一杯になります。
個人的なお勧めとしては、前の人をやり過ごし、あえて一人きりで部屋に取り残される瞬間を待つこと。
邸宅の静寂と作品が共鳴する瞬間こそが、本展の醍醐味です。
写真撮影が可能なのも嬉しいポイントです。
その他の注意点
会場内にはコインロッカーやクロークの用意はありません。
邸宅内は通路が狭く、急な階段や繊細な作品も多いため、大きな荷物を持っての鑑賞は避けたいところ。
九段下駅などの公共ロッカーに預けてから、身軽な状態で来場することをお勧めします。
また、利用できるトイレの数は非常に限られていますので駅や周辺施設で事前に済ませておくと安心です。
そして、邸宅内は土足厳禁のため、備え付けのスリッパに履き替えます。履いていた靴は会場に用意されたトートバッグに入れて持ち運びます。
展覧会の様子

ここから実際の展覧会の様子を写真中心に紹介していきます。
靴を脱いでスリッパに履き替えて館内に入って行きます。
館内の元々の装飾や家具などは半透明のビニールに覆われています。
いつもの九段ハウスとは違うということがこの時点でも感じ取れます。
2階に上がる階段前に最初の作品が置かれています。

2階の階段の踊り場の作品。Phantomシリーズの作品で、台座や壁に残った跡とキャプションでそこにあったものを想像させる作品です。

手前の部屋には大きな絵画作品。

この部屋には頭皮を模した作品が展示されています。

先ほどと同じような作品。

徐々に白髪交じりになり、老いを表現していそうです。
大きなレザーの作品。使わない家具などにかけられる埃除けカバーのドレープなどから着想を得たようです。

浴室にも黒い彫刻作品。

触れると人の肌に似た感触のシリコン素材で作られているそうです。
3階に上がり、廊下にあるPhantomシリーズの作品。

毛むくじゃらになったフェンスやバリケードのような作品。

髪の流れを図解した2つの作品。


大きな爪のような彫刻作品。

ビーチサンダルを潰したような作品。

毛むくじゃらなバス停のような作品。

白い台の上に描かれたPhantomシリーズ作品。

階段のようなもの描かれた作品。照明にもカバーがかかっていいて印象的な部屋でした。

地下1階まで降りてきて、暗いボイラー室に展示され爪の破片のような作品。

廊下の壁にも円状に描かれたPhantomシリーズの作品があります。

ここからは人間の身体を探求していった立体作品が並びます。

まずは鋳造型だけで本体の無い作品。

黒板のようなものに文章が描かれた作品。

胸、腰、お尻それぞれの部分を切り出したような作品。

ミロのヴィーナスをブラジャー、ガードル、パンツに分解した作品らしいです。

続く廊下部分には人体のどこかを切り出したような彫刻作品が並んでいます。

この作品は触ってもいいそうで、滑らかな質感を実際に感じることができます。

短い映像作品もあり、デオドラントスティックと髪の毛で覆われた女性が流れます。


近くには映像にでてきた女性が使っていたようなウィッグが置かれていました。

最後はこの作品。タイトルはSelf Portrait(Triptych)。

自身の素顔を公開しないマルジェラらしい「自画像」の作品で締めくくられていました。
ミュージアムショップにも注目

作品鑑賞を終えたら、庭園側から一階のミュージアムショップに立ち寄れます。

公式図録には本展のインスタレーション風景が収められています。

各作品の簡単な解説も添えられているので必見です。

メインビジュアルとなっているデオドラントも限定販売されています。

Tシャツやトートバッグ、ショルダーバッグに、着物風のジャケットなどファッション界を去った彼が作る「服」というアイロニーが詰まったアイテムも見逃せません。

その他にはキーホルダーやポストカードといって展覧会の定番アイテムも並んでいました。


展覧会の感想

九段ハウスを出て駅まで歩きながら、ふと考えたことがあります。
それは、「目に見えないけれど、確かにそこにあるもの」のことです。
マルジェラの作品は、どれも不思議なものばかりでした。
大きな髪の毛の塊や、顔のない置物。一見すると「これって何?」と思うかもしれないけれど、古いお屋敷の空気と一緒に眺めていると、なぜか「ずっと昔からそこにあった」ような、不思議と落ち着く気持ちになれました。
かつてのマルジェラが、服の常識を壊して新しいおしゃれを作ったように。
今の彼は、私たちがふだん見逃している「時間の積み重ね」や「誰かの気配」を、アートとして教えてくれている気がします。
難しいことは抜きにして、ただこの不思議なお屋敷に迷い込み、マルジェラが仕掛けた「秘密」を探しに行くだけでも、きっと忘れられない体験になるはずです。
ということで「MARTIN MARGIELA AT KUDAN HOUSE」の超個人的なオススメ度は…。
★★★☆☆
あくまで私個人の感想ですが、参考にしていただければ幸いです。
これからも少しずつアートやファッション関係の記事を書いています。
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