ノグチのエッセンスが体感できる新しい展示「イサム・ノグチ 発見の道」

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イサム・ノグチ 発見の道 アート
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 東京都美術館にて開催されている展覧会「イサム・ノグチ 発見の道」。20世紀を代表する彫刻家のイサム・ノグチの創造の軌跡をたどる本展。私は過去にノグチの作品をいくつか拝見したことはありましたが、作者の詳細を知らなかったため、開催時から注目していた展示会です。緊急事態宣言により休館していましたが、6月1日(火)より再開したので早速行ってきました。

イサム・ノグチ 発見の道
上野の東京都美術館で開催している展示会「イサム・ノグチ 発見の道」
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イサム・ノグチ(1904−1988)とは

 アメリカ生まれの芸術家。日本人の父とアメリカ人の母の間に生まれ、アイデンティティの葛藤に苦しみながら、独自の彫刻哲学を打ち立てました。彫刻のみならず、舞台美術やプロダクトデザインなどさまざまな分野で大きな足跡を残し、丹下健三、三宅一生、磯崎新など日本人クリエーターとの交流も深く、その生き様は多くのアーティストからリスペクトされています。

「イサム・ノグチ 発見の道」見どころ

 晩年の石彫に至るノグチの「発見の道」を、約90件の作品から紹介。彫刻と空間とは一体であるというノグチの思考に基づいて、会場を3つの展示空間で構成されています。ノグチ芸術の到達点とも言われる晩年の彫刻作品が香川県高松市牟礼町のイサム・ノグチ庭園美術館から同所以外でまとめて展示されるのも今回が初めてです。

 本展は「彫刻とは何か」を追求したノグチの芸術の精髄に迫るものですが、3つのフロアがそれぞれ特色のある体感型展示になっており、写真を撮りながら(※撮影不可の場所もあります)それぞれの庭を散歩するようにノグチの残したものを体験できます。

開催概要

会期  :2021年4月24日(土)-8月29日

開室時間:9:30~17:30(入室は開室の30分前まで)

休室日 :月曜日(ただし5月3日、7月26日、8月2日、8月9日は開室)

会場  :東京都美術館 企画展示室

チケット

一般   :1,900円

学生   :1,300円

65歳以上:1,100円

※高校生以下無料

 日時指定予約を実施。混雑時は事前予約なしでは入場出来なくなるため、来場前には公式サイトまたはチケットサイトなどで事前にチケットの購入をおすすめします。

 私は日曜の14:00〜14:30の枠を予約。展示室内は多少混雑していたものの、待ち時間はなく快適に鑑賞できました。

3つの展示空間について

【第1章】彫刻の宇宙 B1F

岐阜提灯を見たことを契機に制作が始まったインスタレーション<あかり>
岐阜提灯を見たことを契機に制作が始まったインスタレーション<あかり>

 まず展示室に入ると目に入るのが無数の堤灯。これは1951年に岐阜提灯を見たことを契機に制作が始まったインスタレーション<あかり>です。太陽と月に見立てた「光の彫刻」であり、ノグチのライフワークとなったものです。展示室の中心にこの巨大なインスタレーションを据え、周囲に1940年代から80年代の作品が配置されています。

 ノグチの記念碑的作品<黒い太陽>の習作や、1940年代から手がけた「インターロッキング・スカルプチュア(日本建築のような複数のパーツによる彫刻)」を代表する作品<化身>、禅的な世界観を感じさせる<ヴォイド>など、多様なノグチ作品を体感できます。

左から<黒い太陽>、<クロノス>、<ヴォイド>
左から<黒い太陽>、<クロノス>、<ヴォイド>

 この展示会の目玉といってもいい作品が<あかり>です。和紙を通した柔らかくあたたかな光がゆっくりと点き、消えていく。その光加減によって他の作品の表情も変わっていきます。また、<あかり>の下はプロムナード風になっていて、歩いて楽しむことができます。近くで見てから遠くから見たり、下から見たりと時間を忘れて光の彫刻に見入ってしまいました。

和紙を通した柔らかな光がゆっくりと点滅する様は時間を忘れて見とれてしまう
和紙を通した柔らかな光がゆっくりと点滅する様は時間を忘れて見とれてしまう

【第2章】かろみの世界 1F

 この展示室は「かろみ」、つまり「軽さ」をテーマに、日本の折り紙や切り紙をヒントにして作られた金属彫刻が多く展示されています。詩人であった父親の米二郎とは複雑な間柄だったそうですが、父親の祖国である日本の文化や伝統はその創造の重要なキーポイントとなっていたそうです。なかでも日本の文化の諸相がみせる「軽さ」の側面は、ノグチが自らの作品に取り込むことに情熱を傾けた重要な要素だったようなのです。

ペンダント型の<あかり>。前のフロアとはまた違った柔らかな光を表現している
ペンダント型の<あかり>。前のフロアとはまた違った柔らかな光を表現している

 第1章で登場した<あかり>のスタンド型タイプや、ペンダント型のもの設置され、また違った柔らかな光を表現していました。鮮やかな赤い色の作品<プレイスカルプチュア>は1930年代から遊園地の構想を持っていたノグチがデザインした遊具です。遊具にしてはちょっと危険に見えますが、色鮮やかで力強く、かつ軽やかなフォルムの本作にはノグチの情熱と揺るぎない信念が込められているかのようで印象的でした。

色鮮やかで力強く、かつ軽やかなフォルムの作品<プレイスカルプチュア>
色鮮やかで力強く、かつ軽やかなフォルムの作品<プレイスカルプチュア>

 同フロアにはノグチがデザインしたソファとオットマンも展示されていて、実際にその座り心地も体験できます。もちろん私も座りました。<あかり>もですが、こんな家具が置けるような部屋に住みたいものですね・・・。

【第3章】石の庭 2F ※撮影不可エリア

 制作拠点であったニューヨークと香川県牟礼町にそれぞれアトリエを構えており、現在、イサム・ノグチ庭園美術館が開館しています。とりわけ牟礼の野外アトリエで作られた晩年の彫刻はノグチの芸術の到達点ともされていますが、第3章では牟礼に残された作品が同所以外で初めて一挙に公開されています。

 石に手を加えつつもその本来の要素を残すという制作から生まれた<ねじれた柱>や<フロアーロック(床石)>などの作品が並び、世界と感覚とが交わるノグチのアトリエのエッセンスにふれることができます。

 フロア最後には約5分の映像で牟礼のイサム・ノグチ庭園美術館の紹介がされています。本展示会で見ることができた作品も素晴らしいのですが、イサム・ノグチ庭園美術館は周りの環境や自然の景観、屋外のランドスケープ設計、選んで移築された建築など、全体がひとつの「環境作品」となっており、ぜひ一度訪れてみたい場所だなと思いました。

音声ガイドとサウンドツアー

 本展示会では大ヒットアニメ「鬼滅の刃」で煉獄杏寿郎を演じる声優・日野聡さんがナビゲーターとして作品の案内をしてくれる「音声ガイド」(600円)と、サカナクション・山口一郎さんがノグチが辿った足跡をもとに古今東西の楽曲リストを選び出し、完成した展示空間に合わせて編成した「サウンドツアー イサム・ノグチと音楽」(800円)を追加で楽しむことができます。

 私は最初サウンドツアーのほうを聞いて回っていたのですが、途中で作品の詳細のほうが気になってしまい音楽に集中できなくなり、途中で通常の音声ガイドをずっと聞いていました(笑)。個人的には一度音声ガイドで作品についての理解を深めてからサウンドツアーで空間に没頭するのが良さそうです。

最後に

 音声ガイドとサウンドツアー両方楽しみ、写真を撮りながら回って大体2時間ちょっとの滞在でした。私はどちらかというと鑑賞スピードが速いほうなので、ボリュームある展示内容だったのかなと思います。

 個々の作品も興味深いものが多かったのですが、サウンドツアーを取り入れたりと、空間自体が作品となっており、また新しいアートの楽しみ方を教えてもらえました。

 屋外×彫刻作品はやっぱりいいですね。また彫刻の森美術館やヴァンジ彫刻庭園美術館にも行きたくなりましたし、この熱が冷めないうちに牟礼のイサム・ノグチ庭園美術館にも訪れてみたいです。

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