東京国立近代美術館で現代美術の巨匠、ゲルハルト・リヒターの大規模個展「ゲルハルト・リヒター展」が開催中です。
ゲルハルト・リヒターの個展は、日本では16年ぶりで、東京では初めてです。
今年90歳となるリヒターは、現在も積極的に制作を続けています。本展ではそんなリヒターの60年以上続く活動を122点の作品によって振り返ります。
初期のフォトペインティングから、代表作ビルケナウ、そして最新のドローイングまでリヒターの長い活動を表すかのような多彩な作品が展示されています。
開催前から個人的に注目していた展覧会だったので、早速開催最初の週末に行ってきました。想像以上に混んでいましたが、期待通りにとても良い内容でした。
本記事では「ゲルハルト・リヒター展」の概要、チケット、展示内容にグッズ、そして混雑状況と所要時間、私の個人的な感想などをまとめたものとなります。
展覧会の概要
会期 | 2022年6月7日(火)~10月2日(日) |
開館時間 | 10:00-17:00(金・土曜は10:00-20:00) ※入館は閉館30分前まで |
休館日 | 月曜日(ただし7月18日、9月19日は開館)、 7月19日(火)、9月20日(火) |
会場 | 東京国立近代美術館 |
住所 | 〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1 東京メトロ東西線「竹橋駅」1b出口 徒歩3分 |
ちなみに東京国立近代美術館では10月2日までの開催ですが、終了後は愛知の豊田市美術館へ巡回していきます。(豊田市美術館での会期は2022年10月15日〜2023年1月29日)
チケットについて
日時指定制チケットをオンラインサイトで購入できます。
当日券の販売も窓口で行なっていますが、日時指定制チケットでの来場者が優先となるため、会場内が混雑している場合は入場までかなり待つ可能性があります。
よって事前に日時指定制チケットの購入をおすすめします。
チケット料金は以下の通りです。
- 一般 2200円
- 大学生 1200円
- 高校生 700円
- 中学生以下 無料
同チケットで入館当日に限り、同時開催の所蔵作品展「MOMATコレクション」にも入れます。
音声ガイドについて
ゲルハルト・リヒター展では有料の音声ガイドが用意されています。
ナビゲーターは「鈴木京香」さん。音声ガイドの長さは30分程度です。
会場レンタル版(貸出料金600円※現金のみ)と、自分のスマホやタブレットを使ってアプリ「聴く美術」(610円)で音声ガイドを利用することもできます。
アプリ版は配信期間中(2022年6月7日~2023年1月末予定)であればどこでも楽しめるということだったので、私はアプリ版を利用しました。
家に帰ってきてから復習するのにとても便利でした。
ゲルハルト・リヒターについて
現代美術において最も評価されている現存作家の一人であるゲルハルト・リヒター。
1932年、ドイツ東部、ドレスデンに生まれ、ベルリンの壁が作られる直前の1961年に西ドイツへ移住し、デュッセルドルフ芸術アカデミーで学びました。
コンラート・フィッシャーやジグマー・ポルケらと「資本主義リアリズム」と呼ばれる運動を展開し、そのなかで独自の表現を発表し、徐々にその名が知られるようになります。
その後、イメージの成立条件を問い直す、多岐にわたる作品を通じて評価されるようになり、世界の名だたる美術館で個展を開催していき、現代で最も重要な画家としての地位を不動のものとしています。
油彩画、写真、デジタルプリント、ガラス、鏡など多岐にわたる素材を用い、具象表現や抽象表現を行き来しながら、人がものを見て認識する原理自体を表すことに、一貫して取り組み続けてきました。
今年で90歳を迎えました今も積極的に制作を続けています。
混雑状況や所要時間、展覧会の内容について
私は土曜14:00〜のチケットを予約し、14:20頃に東京国立近代美術館に着きました。
入り口では数十人の列が既にできており、中に入るのに20〜30分くらい待ちました。
会場内もかなり混雑しています。
ちなみに会場内は一部作品を除き写真撮影可能でしたが、写真に人が映らないように撮るのはなかなか困難なくらい混んでました。
会場ではリヒター本人とゲルハルト・リヒター財団が所蔵するものを中心に122点の作品を紹介し、60年にも及ぶ画業を紐解く内容となっています。
会場構成はリヒター自身が手がけ、章構成や順路はありません。
初期の作品から最新の作品、具象から抽象まで、さまざまなシリーズの作品が場内で入り乱れるような構造となっており、自由にそれぞれのシリーズを往還しながら、リヒターの作品と対峙することができる空間を創出しています。
会場に入ってから、出るまでの所要時間は大体1時間半くらいです。空いていたらもっとゆっくり見て回っていたかもしれないです。
制作年順などではないのですが、一度好きな順番に見て回ったあとに制作年順で見たりと、何度も見返したくなる魅力のある作品と展示方法だったと思います。
ここからは私が見た順になりますが、各シリーズを簡単に紹介していきます。
ネタバレしたくない人はすっ飛ばしてください。
また、どんな作品が展示されているかをサクッと見たい方はInstagramのリール投稿にまとめましたのでそちらをご覧ください。
アブストラクト・ペインティング
「アブストラクト・ペインティング 」は1970年以降から40年以上描き続けられているシリーズ。
1970年代後半からリヒターは抽象絵画に取り組み始めます。絵筆の他に「スキージ」呼ばれる自作の大きく細長いへらを用い、たっぷりと絵具を塗ってはそぎ落とすという独自の描き方で制作されています。
この手法は書き手のコントロールには収まらず、画面上に予想のできない色彩のイメージが偶然に発生し、質感の異なる絵具の層が生み出されます。
2016年の作品ではスキージの他、キッチンナイフも使っているそうです。手首を回転させながら絵具を勢い良く削り取ることでより自由で軽やかな印象が生まれています。
8枚のガラス
最初の部屋の中央に立ち並ぶガラス板。
近づいたり、離れたり周囲を歩いてみると8枚のガラスが互いの表面に作品や周囲の光景を映し出します。
横から見ると現実の世界は断片化され、正面から見ると鑑賞者の姿は曖昧な輪郭へと拡散されます。
そして、移動することで実像と虚像が重なり合うそのイメージがまた新たなイメージを見出していきます。
鑑賞者が参加することで完成する作品とも言えますが、映ろうイメージを無限に映し出す装置のようなこの作品は「私は絶対的なイメージを信じない」と言うリヒターの世界観も表しているようです。
どのような真実も絶対ではなく常に別の見方もあることを示唆しているのかもしれません。
ビルケナウ
2014年に製作され、リヒターにとって達成点であり、転換点にもなった作品だと言われている4点の巨大な抽象画「ビルケナウ」。
スキージでなめされたためか、微細な傷がつきつつも光沢のある表面は鉛やなめされた皮のような質感を思わせます。
これらの絵画の下層にはアウシュッヴィッツ=ビルケナウ強制収容所で撮られた4枚の写真イメージが描かれているそうです。
そう言われてから見てみると、滲み出ているかのように画面に点在する赤と緑の色彩は示唆的に思えてきます。
元々は強制収容所で撮影された4枚の写真をフォトペインティングと同じ技法で描く予定だったそうなのですが、ある段階で諦め、最終的に抽象的なイメージとして作品を仕上げました。
この展示室には絵画のビルケナウの反対側にほとんど同じイメージの写真バージョンが置かれており、さらにそれらが共にグレーの鏡に映り込むように設置されています。
グレイ・ペインティング
1960年代後半、写真を離れて取り組んだシリーズが「グレイ・ペインティング」です。
灰色のトーンが筆やローラーで一面に塗られています。
リヒターは灰色について「無を示すのに最適」と語っていますが、その画面に絵具を載せる方法にはさまざまなバリエーションを用いています。
カラーチャート
1966年に着手した「カラーチャート」は工業製品の色見本を絵具に置き換え、一面に色とりどりの四角形を描く幾何学的な絵画シリーズです。
既存の色見本に基づいて色彩を作っておき、偶然に任せて並べていく手法がとられています。
2007年に製作されたこの作品は25色を並べたパネル1枚を基本単位として、196枚組み合わせた大掛かりなものです。
空間に合わせて11通りの展示方法があり、今回はそのうちの1つを採用しているそうです。
頭蓋骨、花、風景、肖像画
頭蓋骨や花を描いた静物画や山並みや海を描いた風景画といった、古典的な主題も取り上げています。
風景や静物は憧れを表していると語っていたそうで、風景画という伝統的なジャンルにも長く取り組んできました。
この子供の絵は1995年に生まれたリヒターの長男が描かれています。
彼が8ヶ月のときに撮影された写真をもとに2000年に一度仕上げ、2001年、2019年に2度加筆しているそうです。
成長し変化する子供の姿と絵画のイメージとが重ねられているかのようです。
フォト・ペインティング
写真を忠実に描くことで、絵画を制作する上での約束事や主観性を回避し、代わりに写真の客観性やありふれたモチーフを獲得する「フォト・ペインティング」と呼ばれる絵画シリーズ。
これらの絵画は刷毛でボカされているため、一見するとソフトフォーカスの写真であるかのように見えます。
しかし、近づいてその刷毛目に気づけばそれが紛れもなく絵画であることに気づかされます。絵画を否定するような描き方が、絵画せよ際立たせてもいるようです。
この作品はアメリカのシカゴで起こった殺人事件の報道写真を元に描いた同名の絵画作品を写真パネルとして再制作したものです。
1960年代にはこのような無名の被害者をたびたび描いており、報道記事のセンセーショナルなテキストやその他の視覚的情報を削ぎ落とし、日常的な表情のみを切り出すように描いていたようです。
ストリップ
2011年から始められたデジタルプリントのシリーズである「ストリップ」。
高さ2メートル、全長10メートルもの大きさの鮮やかな色の帯の大作。
縞の帯の並べ替えや組み合わせに意図的に介入することで偶然と画家の操作が掛け合わされています。
作品の前に立つと色の広がりが無限に続くかのようで、さまざまな色の帯が浮かび上がったり、遠のいたりするため距離感が失われて不思議な感覚に陥ります。
ぜひカメラを向けて近づいたり離れたりしてみてください。不思議な動画が撮れますよ。
フィルム:カラー・ブラトケ
リヒター唯一のフィルム作品です。
フォルカー・ブラトケという人物を映し続けています。
彼は作家仲間には知られている美術愛好家のようですが、一般的には無名の人物です。
映像は焦点が合っておらず、全体的にボケており、人物は謎めいた神秘的な存在のようでもありながら、名前を奪われた存在にも見えてきます。
オイル・オン・フォト
色とりどりの小さな作品が壁面に並べられているのが、1980年代末に始まった「オイル・オン・フォト」の作品群。
近づいてみると風景や人物の写真の上に油絵具などが塗り重ねられ、本来のイメージがかなり失われている一方で、絵具の塗り方やテクスチャーはバリエーションに飛んでいます。
写真と絵具が混じりあったり、相互に呼応し合ったりすることなく同一の平面上に並置されているこのシリーズは、絵画と写真、再現性と抽象性が拮抗し合うという点で、リヒターの創作の核心を端的に示しているようにも見えます。
アラジン
2010年から制作され始めた、一種のガラス絵とも言えるシリーズです。
さまざまな色の絵具が互いにせめぎ合うようなカラフルな抽象画のように見えます。
何色かのラッカー塗料を板の上に載せ、ヘラや筆でかき混ぜ、塗料の動きに任せた後、ガラス板を上から載せて軽く圧すと、ラッカー塗料がガラス面に転写されます。
他のシリーズと同様に色の選択、かき混ぜ度合いといった作家の主観的な意図と、塗料という事物が生み出す偶然がせめぎ合ってイメージが生まれています。
そのイメージは幻想かつ想像を誘うようなところがあるため「アラジン」といった物語を想起させるタイトルをつけたそうです。
ドローイング
最後の展示スペースには2021年の新作ドローイングが展示されています。
一般的にドローイングは絵画を描くための下絵、あるいは構想といった役割を果たすことが多いですが、展示されている作品は断片的な線や面を画面全体に配した抽象的なものです。
2020年の秋にもう絵を描かないと宣言したそうですが、ここに並ぶ2021年の新作ドローイングからは制作意欲が伺えます。
グラファイト鉛筆による研ぎ澄まされた線や、ボカしが生む繊細な陰影が豊かなイメージをもたらしています。
オリジナルグッズについて
会場の最後には特設ショップがあり、ゲルハルト・リヒター財団監修の展覧会オリジナルグッズが販売されています。
図録、ポストカードやトートバッグなどの定番に加えて、展覧会のロゴが入ったTシャツ、ノートボールペンなどさまざまなグッズが並んでいました。
ポスターも5種類シートで販売されており、私は<モーターボート>と<アブストラクト・ペインティング>の2枚も買ってしまいました。
特設ショップもかなり混雑しており、レジで会計するのも入り口と同じくらい並びました。
ちなみに図録やポストカードは通常の東京国立近代美術館のグッズショップで販売していましたので、そちらで買った方が待たずに済むかもしれません。
「MOMATコレクション」でもリヒターの作品が展示
国立近代美術館では本展にあわせて、収蔵作品展の「MOMATコレクション」内で「ゲルハルト・リヒターとドイツ」という章が設けられていました。
ここではリヒターの<9つのオブジェ>、<抽象絵画(赤) >が展示されていますので、こちらも見逃さないように。リヒター展よりは空いていて作品の鑑賞がしやすいです。
別のエリアには村上隆さんや会田誠さんの作品などもあり、こちらも見応えあります。
「MOMATコレクション」もじっくり見るならさらに1時間以上は必要です。
ちなみに「MOMATコレクション」に入る前に、特設ショップで買ったポスターは1階の受付で預かってもらえました。
ゲルハルト・リヒター展に行った感想
最も評価されている現代美術家の一人であるゲルハルト・リヒターの初期から最新作までが展示されている回顧展。
さまざまな技法を用いた作品は、一人の作者によるものとは思えないような幅があります。
ガラスや鏡など鑑賞者を写し出す作品や、多彩な色遣いやタッチの作品は、見ていると目を通して脳が混乱するくらい情報量がとてつもなく多く、刺激を受けること間違いありません。
欲しかったポスターも買えましたし、MOMATコレクションも見れるのでかなり満足できる展覧会でした。
ということで、「ゲルハルト・リヒター展」の超個人的なオススメ度は…。
★★★★☆
あくまで私個人の感想ですが、参考にしていただければ幸いです。
これからも少しずつアートやファッション関係の記事を書いています。
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